その12・誕生

手術の日がやってきた。その日帝王切開を受ける人では一番最後の4番目、かつ婦人科の手術も間に入る、とのことだったので、夕方になりそうとのことだ。待ち時間の間、水分の点滴はされるので干からびることはないのだが、空腹だしのどが渇くので、うがいでごまかす。
午後うちの両親とダンナがやってくる。ちょっと緊張してきた。ここまでこれたことに感謝している反面、赤ちゃんの状態がものすごく気になる。やはりNICUでお預かりになるんだろうか?
手術前、尿管を入れられる。気持ち悪い。そして、とうとうウテメリン点滴が外された。ありがとうウテメリン。あなたのおかげで私たち親子は助かりました。さらばウテメリン
そして、とうとう出発の時。ダンナと両親に心配かけないよう、明るく振舞う。ていうか、死ぬわけじゃあるまいし、ここまで来たら何も怖くない。本日の帝王切開立会い担当の助産師Nさんにベッドを押され、手術室へ。緊張してきたような気がしたが、ここまでこれたことの喜びの方が大きく、落ち着きはすぐ取り戻せた。
S先生が「長い入院だったけど、いよいよですね。」とか何とか言うので、
「ええ、年も越しました(笑)。」というと苦笑しておられた。
下半身だけ麻酔をされ、手術後30分ほどで赤ちゃんがでてきた。といっても、衝立をされているので私には見えない。手術室の看護師さんが「はい、今、足がでてきました〜」とか説明してくれるんだけど、わからない。
産声が聞こえた。ああ、泣いてくれている・・・
Nさんが「めちゃめちゃ元気!女の子ですよ。」と喜んでいる。
立ち会っている小児科の先生が「元気な赤ちゃんです。大丈夫。」といってくれた。ああ、よかった。でも、体重は?2500g未満ならNICUに行くんでしょ?まだちょっと不安。
そうこうしているとNさんが赤ちゃんを抱っこして見せに来てくれた。何だか不思議な気がした。一緒に頑張っていたこの子とようやく対面がかなった、というこの現実が夢のようだ。
「はじめまして。」
開口一番、こんな言葉が口からでた。これから、どうぞよろしくね。
そして赤ちゃんは一足先に手術室を出て、私の後処理&子宮筋腫を取れるだけ取るということが始まった。M先生とS先生が時間と出血を気にしながら衝立の向こうで何やらやっている。で、なんだかものすごくお腹が痛いので、訴えると、「今ものすごくいい感じで子宮が収縮してます。」といわれる。とにかくものすごく痛くてしんどいので、痛み止めを入れてもらった。で、自己血を輸血する作業も始まった。この間はしんどくてずーっと目をつぶっていた。
結局、赤ちゃん誕生はすべての手術時間の4分の1ほどの時間で、後はほとんど後処理と子宮筋腫を取るのに使われたのである。
「はい、これが子宮筋腫ですよ〜。」とS先生が2つのこぶみたいなのを見せてくれた。こんなものが私のお腹にあったのか?!
思わず、「げっ。」と叫んでしまい、看護師さんたちが笑い出す。
「あと一つ、一番大きいのは、出血が増えそうだったので取れませんでした。もちろん、別の機会に取ることはできますよ。これ、病理にまわしておきます。」
限られた時間でベストをつくしてくれたことに感謝。
手術室にNさんが迎えにきてくれた。赤ちゃんがダンナと対面した、とか話してくれて、
「何かすごく時間がかかってましたけど、どうしたんですか?心配なんで、手術室に電話で問い合わせしたんですよ。」
子宮筋腫を取っていたことを説明し、
「赤ちゃんの体重は?」と一番気になっていたことを聞いた。
「2890gでした。」
「じゃあ・・・新生児室にいるんですか?!」
「はい。」
「よかった・・・。」
これで、肩の荷がおりた。最もよい形で、私たち親子は救われたのだ。今はもう何も言うことはない。
参加病棟に入り、新生児室前に差し掛かると、ダンナと両親、顔なじみの助産師さんたちがわーっと数名でてきて、口々にお祝いの言葉を述べてくれて、再び赤ちゃんを見せてくれた。元気そうだ。やっぱり新生児室にいる。
病院の皆さん、ありがとう。私たち親子は救われました。それ以上の余計な言葉を書くことはできない。