その11・帝王切開前日

そして手術前日。ダンナと私にM先生から手術についての説明があった。「こんな話があなたにできるようになってうれしいですよ。」と笑う先生。で、子宮筋腫については、「ついでに取れるかどうかはわからない」といわれた。手術時間が長くなっても、出血が増えてもいけないから、うまくいけば取るが必ず取れるかどうかはわからない、と。取れるものなら取ってほしいですけど、とは前から話していたが、あくまでも手術の目的は「帝王切開」なのだから・・・ここまで来たのだから、そこまで望むのは贅沢だな、と思った。輸血説明書やら帝王切開の説明書を一読し、同意書にサインする。なるほど、確かに急変すると、こんなもの読んでる暇はないわけだ。なんだかドキドキする反面、明日赤ちゃんと対面するという実感がわかない。帝王切開だからというわけではなく、長い間入院して一日でも長く持たせる、という生活に慣れてしまっていたので、普通の妊婦と同じ扱いをされているのがどうも変な感じなのだ。
日帝王切開を受ける人は私を含めて4人。私以外は前日に入院する(つまり切迫早産の人とかはいないってこと)。この人たちと一緒におっぱいマッサージのビデオを夕方見る。当然ウテメリン点滴台をカラカラ引いているのは私だけ。で、切迫早産の私は、おっぱいマッサージなんぞできなかった。そんなことしたら、お腹が張るから仕方ない。母乳でるんだろうか?と思ったが、そんなことは後で考えようと思った。赤ちゃんは元気に産まれてくるだろうか?そのことが心配だ。
ビデオ見てからベッドでぼーとしていると、M先生がやってきて、
「エコーで赤ちゃん見せてもらっていいでしょうか?」と言う。
エコーは数日前に見たところで、もう手術までは見ない、先生の診察はこれでおしまいなのねえ、何か寂しいわ、ということだったのに?
「実は、インターンの先生(「点滴針が入りません」で登場した針刺しが得意な研修医)が、一度もエコーをしてないんです。期間考えると、チャンスは今日しかないんですわ。」
なるほど。で、たぶん、先生の患者で明日帝王切開というのは私しかいないんだな。
願ったりかなったりだ。一回余分に会える!快く承知。
ちなみにM先生は、研修医や他病院から勉強に来る先生の世話係らしい(以前はオランダ人の先生も連れていた)。研修医さんに指導しつつ、エコー開始。
この日の赤ちゃんは今までで一番はっきりと顔の輪郭等が見えた。今までは後ろしか見えなかったが、今日は前を向いている。相変わらず逆子ではあるが、明日手術だからもういい。M先生いわく、
「この子やる気になったかな?」と。
やる気、って、外に出る気になったということですか。それなら、手術前日にやる気になったということは、いいことだ。ただ・・・やはり2500gに届いていない・・・。
この病院では、2500g未満の赤ちゃんはNICUに入ることになっている。で、私の赤ちゃんはエコーで何度測っても、2500gに届いていなかった。この日もそうだった。M先生も、「エコーで2800g越えてたら万々歳なんだけどねえ。」と言う。以前出血した夜中、当直だったので私を診てくれたI先生は「逆子の場合は、エコーだと実際より軽く測れてしまうことが多いよ。」と言っていたので、それを信じて祈るしかない。でも、たとえ2500g越えていなくても、正産期だからすぐNICUから出れるだろう。今までのことを考えてみたら、それでも十分じゃないか・・・。それに、これだけ点滴を長期間し続けて、母体にはかなりの負担がかかっている。何か特別な事情があるならともかく、37wに入ったらそれ以上持たせる意味はない、と言われているのだから。
夜、M先生の上司(というか師匠のような感じらしい)のS先生がやってきた。「明日は私も一緒に手術室に入らせてもらいます。」とのこと。ちなみにこのS先生は、私がY病院で一番初めに診てもらった先生で、この先生が子宮筋腫があっても場合によっては普通分娩もできるかも、と言ってくれたのだ。ま、逆子だったからやっぱり帝王切開だけど。
夕食後は飲み物のみで、日付が変わると絶飲食となる。のどがかわいたらうがいをするのだ。日付が変わるまでお茶を飲み溜めしておく。
私は明日、手術の順番が一番最後になっている。どうも一番厄介な妊婦だかららしい(笑)。なので、今から緊張しても疲れるだけ、というか、元来お尻に火がつかないと慌てない性格なので、落ち着いて過ごす。
以前、ある助産師さんが「ある妊婦さんが『今は赤ちゃんといつも一緒だけど、産むとこの子と離れてしまう、というのが寂しくて仕方ない。このままでずっといたいような気がする。』と言ってたんですよ。何か感動してしまって。」という話をしてくれた。私もいたく感動したが、そんな境地には自分はなれないだろうと思っていた。が、いよいよ明日手術を迎え、この胎動ともおさらばか、と思うと、ちょっとだけその境地に入れたような気がする。