その9・日々の積み重ね

「一日一日の積み重ねが大事。今の時期は赤ちゃんがすごい早さで成長してる。一日でも長く持てば状況がよくなっていくんですよ。」
これはM先生が私に言った言葉だ。21週後半から入院し、お腹の張りは収まらず、点滴の薬の濃度もどんどん上がっていったころ、その一日が長くて、私は何度もあきらめ人知れず涙したものだった。
そして24週が過ぎ、退院のめどが全くたたない。今度は、
「26週をめざしましょう。」
といわれた。
「先生、赤ちゃんが助かるのは何週ですか?」
「現代医学では28週で生命の保証があるといわれています。」
「28週・・・(あと4週近くもある)。」
「まず、26週を目指してがんばりましょう。」
この頃、M先生は小児科の先生(NICUは小児科の管轄)と、私のことでよく話してくれていたらしい。今産まれたら赤ちゃんはかなりの低体重なのでNICUで長期入院が間違いないからだ。ちなみに、この時しきりに26週と言われたのだが、どうもY病院では26週で産まれてもそこそこの実績があったとかいう話を入院仲間の妊婦さんに後から聞いた。確かに、入院中知り合いになったある妊婦さんがいて、この方は26週前後で帝王切開となったもののNICU入院を経て無事大きくなってめでたく赤ちゃんが退院したんだけど、それはこのブログを書いている今だからこそ知っている話。
28週までの日々はとても長かった。26週ごろ、またお腹の張りがきつくなり、限界ぎりぎりまで点滴の濃度をあげた。もう後がない。だめなんだろうか・・・先生と話して、次はもうよほどの張りがない限りは濃度を上げず、安静度を車椅子にする等で対応することになった。
同室の他の妊婦さんたちは、私よりみんな週数が進んでおり、私がうらやましがると、
「妊娠した日が違うだけで、私たちも同じだけ時間を過ごしてきたわけだし。28週越えると、気分が少し楽になるわよ。一日一日の積み重ねだよ、本当に。」
と励まされた。
そして28週がやってきた。その夜、M先生が
「大きな壁を越えましたね。」
と言ってくれた。赤ちゃんはまだ小さいものの、何はともあれ生命は助かる保証ができた。
次の大きな壁は34週だ。34週越えると、早産とはいえY病院の産科的には産まれてもよし、とされている。34週を越えると、赤ちゃんは自力で呼吸ができ、ミルクを口で飲むことができるそうだ。
でも、まだ6週間もある。先のことは考えず、一日一日の積み重ねしかない。とはいえ確かに28週を越えると、気持ちが少し明るくなった。
28週を越えてから2度ほど、M先生はダンナと私に症状と経過の説明をしてくれたが、おそらく早産になる、と予想していたらしい。お腹が張るのに全く子宮口は開かず子宮頚管も短くなっていないという、言い方は変だが不思議な状態だとはいえ、これからお腹がどんどん大きくなれば当然張りはきつくなることを考えると、はたして正産期まで持つかどうかはわからない、と言われた。医者というものは、甘いことは言わず、いつでも最悪の状況を考えてそれに対処するにはどうしたらよいか、ということを考えるものなのだと実感したし、そうじゃなくちゃいけないんだと思う。
しかし、私と先生の予想は、良い意味で覆されていく。28週越えたころから、点滴の濃度を上げるほどの張りはなく、遅ればせながら私は私の安定期(普通の妊婦なら妊娠後期orz)に突入した。むくみが一時期でて血圧が上がったものの、助産師さんがいち早く異変に気づいてくれて食事を減塩に切り替える等した結果、むくみはすぐ取れ、血圧も下がった。これが治まらないと、妊娠中毒症ということで即帝王切開だ、と先生からは告げられ落ち込んだのだが、すぐ対応してくれた結果、大事にはいたらなかった。私の異変に気づいてくれた助産師さんには今も感謝している。
そして30週越え、32週越え、34週越えた。この間にはクリスマス、お正月があり、入院仲間も入れ替わり、私がたった一人で6人部屋を占拠するなんてこともあった。まさに「主(ぬし)」状態である。
34週越えると助産師さんたちが本当に喜んでくれて、「まだ産まれない方がいいけど、まあ、もう産まれてもいい時期になりましたよ。後はいけるところまでがんばりましょう。」と言ってくれた。このころから助産師さんたちの私に対する態度が、普通の妊婦に対する態度に近くなっていく。車椅子はやめになり、マグセント点滴は流量を減らしながら最終的には取った。シャワーの許可もでた。3ヶ月ぶりのシャワーである。しかし、シャワー(風呂)はけっこう負担&その間は点滴を止めるので、すばやくすませなければならない。
35週後半、微量の出血があった。おしるし?!夜中だったが、そこは病院のこと、夜勤の助産師さんに即連絡し、すぐ当直のI先生に診てもらった。結果的にはこれはおしるしではない(おしるしの出血とは明らかに感じが違うんだと。私は初産なのでわからなかった)、大丈夫とのことで、特に安静にしなさいともいわれなかった。週数も進んでるし仮に今生まれると、帝王切開の準備してるのにちょっと嫌だけど、そんなに問題ないという感じだった。この週数なら赤ちゃんの体重がそこそこあれば、NICUに入ったとしても、数日で出てこれるらしい。36週に入っていれば、2日くらいで出れる、とも聞いた。
「あなたもう36週目前なんですよね。よく頑張ってはりますよ。」
主治医ではないI先生にまで顔を覚えられていたらしい。安静度を上げる必要なし、との診断だったが、私は自主的に毎日のシャワーを2、3日置きにすることにしシャンプーもしばらく止める事にした。そしたらよく気がつく看護師さんが、再びシャンプーをベッドサイドで3日おきに行うように手配してくれた。この看護師さんは、事情があってもうY病院にはいないのだが、本当にお世話になった。
それからなんだかんだで、帝王切開に向けて準備が始まるのだが、それは別に書く。